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その顔にイウは驚いて息をのんだ。
彼の顔には、微々たる怯えも後悔もなかったからだ。

恐れのない真っ直ぐな姿勢。前を見据える勇気に満ち溢れた黒い瞳。
穢れを知らないかのように澄んだ空気をまとわせ、上品で理知的な、人を惹きつけるには充分な顔立ちと、穏やかな威厳を持っていた。
それは今までに見たことのない、確固たるものとして強く洗練された印象であった。それが無性に羨ましかった。嫉ましいと言ってもいいくらいに。
暗い世界の中で、エメザレの周りだけが明るくなった。

エメザレのその様子には、グセルガも一瞬言葉を失った。

「ふん」

しかし、すぐに侮蔑するようにして鼻で笑った。

「お前をここに招いたのは、四百年にもわたる黒い髪への支配を続けるべきか否か、わたしが自分の目で見て判断したかったからだ。
お前の行動一つで黒い髪の歴史が変わる。それを自覚し慎重に行動しろ」

「はい。陛下」

「エメザレ。お前はわたしに絶対の忠誠を誓うかね」

答えを信じるはずがないのに、グセルガはきいた。

「はい。陛下。全て陛下の仰せのままに」

「よいか。今お前がここにいられるのは、わたしの善意によるものだ。
けして黒い髪には開かれることのなかった、宮廷への扉をお前にだけ開けてやったのもわたしだ。
わたしに感謝し、絶対に服従し、どんな事があろうとも、一切口答えはするな。
わたしだけではなく、白い髪の誰にも反抗してはならん。口数は少なく、余計なことはするな。そして、何があっても仕事を休んではならない。
お前は黒い髪の中で最も有能なのだから、これくらいはできるであろう。
これらが守れなければ、即刻宮廷を去ってもらう。わかったな」

「はい。陛下。承知いたしました」

イウはグセルガの勝手な決め事に、心の中で異議を唱えたが、エメザレの口調は変らない。特に驚いた様子もなく、すんなりと承知した。
あまりにもあっさりと承諾するので、イウのほうが驚いて目をしばたかせた。
これでは自ら進んで煉獄の惨苦に身を捧げると宣言したと同じこと。その結末は明らかだ。


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