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「いや、武器を構えている護衛部隊に突進してそのまま突っ切り、森のどこかへ消えてしまったそうだ。護衛の一人がその時、馬に頭を潰されて死んだんだと」
「まぁ。かわいそう……」

 眉を寄せてデミルマートが小さく呟いた。

「目撃証言によるとダルテスの髪の色は緑だったらしい」
「ダルテスって髪が緑色なの?」
 
 とイウは聞いた。実はダルテスの髪の色も知らなかったのだ。

「いや、普通は金色か茶色だが、おそらくラルグイムのダルテスだろう。ラルグイムには染髪の文化があるからな」
「じゃあ、実行犯がダルテスで、裏で糸を引いているのはラルグイムのシクアス種族ってところでしょうか? あの国は確か、お金持ちのシクアスがダルテスを傭兵として雇っているんですよね?」
「カオクールの警吏はそう考えているみたいですね」

 セウ=ハルフはため息をついた。そして上着の裏ポケットからスミジリアンの地図を取り出して広げだした。なかなか大きな地図であり広間の大きいテーブルいっぱいに地図は広がった。

「二十二件目にしてやっとヘマをしたって感じだな」

 と、今回の事件現場を指でコツコツと突いてセウ=ハルフが言った。

「二十二件も!」

地図にはご丁寧にも事件が起きた場所は印がされており、順に番号がふられ日付まで書かれている。その印の多さにイウは声を荒げた。

「そうだよ。一ヶ月で二十二件。ここ十日はこの近辺にばかり出没する。最初はヴルドンへ向かうクウェージア移民ばかりが襲われたから、移民の受け入れを反対している勢力の仕業だと思われていた。しかしヴルドンを三度襲撃してからは円を描くようにしながら西へ向かってきている。そして最西端のこの村も先日一度襲われた。ダルテスは今のところ、この西近辺から動く気はないらしいな」

セウ=ハルフは説明しながら事件順に地図の記しに指を差していった。地図の印を目で追っていると、彼はあることに気付いた。はっとした瞬間、それと同時くらいにセウ=ハルフが口を開いた。

「そういえばダルテスは少年にこう訊いたそうだ。『お前の名はイウか』と」


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