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「あら、お早いお帰りですね。お一人ですか?」

 玄関にいたのはセウ=ハルフ一人だった。デミングのことは察しが付く。
 セウ=ハルフは珍しくよそ行きの格好で、それなりに上等な茶色の上着を羽織っている。靴もいつものではなく、よく磨かれた皮のハーフブーツを履いており、洒落た小さな帽子も頭に乗っけていたが、それはあまり似合っていなかった。

「あ、デミングは例のごとく置いてきました」
「あらまぁ」

 とデミルマートは一応言ってみせた。彼女なりの配慮なのだろう。

「ちょっと知らせておきたいことがあって」

 慌てている様子はなく、いつものように適当な理由をつけてデミングに仕事を押し付けてきたように見えたのだが、セウ=ハルフは二人を広間に誘導し、座るように言った。雰囲気に現れないだけで、大事な話をするつもりらしい。

「今回の被害者は死ななかったんです。怪我は負ったが、生死に関わるものじゃなかった」
「それは初めてのことですね。前にも一人だけ即死ではない子がいたけど、すぐに死んでしまったとお聞きしました。ひどい目にあって運が良いとは言いがたいですが、命が助かって本当に良かったですね。事件に進展はあったんですか?」

 デミルマートはなぜか少し緊張しているようで、胸の辺りで落ち着きなく両手の細長い指を絡ませている。

「それなんですが、どうもダルテスに深手を負わせたらしいんです。襲われた少年は下級貴族の息子で狩りをするためにカオクールにやって来ていました。で、その狩りの最中に少し夢中になって護衛とはぐれてしまい、一人になったところを襲われたんです。ダルテスは見たことないほどに立派で大きな黒い馬に乗り、月の形を模した矛(ほこ)のようなものを持っていて、動くたびに矛に付いている飾りがシャンシャンという音を立てていたそうです。彼は狩りをするために弓を持っていたから、それでダルテスに向かって矢を射った。矢は命中し、ついでに護衛もその音ですぐに気付いて駆けつけ、ダルテスに反撃を加えた。少なくとも三本の矢は命中していたと彼らは言っています」
「それで、ダルテスは捕まったの?」

 イウが聞くとセウ=ハルフは今度、イウの方を見た。


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