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その厳粛な静寂のなか、重々しい音をたて扉が開いた。
そして、大勢の白い髪の兵士に取り囲まれ、背に剣を突きつけられたまま、その男はやってきた。
たった一人の丸腰の男に対して、お前は敵だ、と言わんばかりの厳重過ぎる警戒のしようだった。
全てが白い宮廷の中で黒い髪の男だけが目立った。

彼にもわかっているだろう。これから起こる自分への惨劇くらい。どれほどの恐怖や痛みと戦うことになるだろう。
その男の顔には今、どんな凄まじい怯えや後悔がうつっているのだろうか。
イウはその男を見ようと身を乗り出したが、兵士に囲まれた男の顔は見ることができない。

「武器は持っていないのだな」

何度も暗殺の危機にさらされたグセルガは、どんなに厳重な警護のなかでも安心を手に入れることはない。常に他人を恐れている。

「はい。何も」
兵士の一人が答えた。

「なら、全員下がれ」

兵士の群れの中から、ひざまずき王に面を下げる黒い髪の男が姿を現した。

「国立軍事教育所ガルデンから参りました。エメザレでございます」

丁寧だが覇気のある声だった。美しいと言ってもいい。

「エメザレ(劣化)か。お前によく合う良い名だな」

グセルガは嫌味を言った。
グセルガは、それしか安心を得る方法を知らないのだろう。
悲しいことだが、グセルガの固く閉ざされ破壊しつくされた心は、それが信用を確かめるのに最も適した手段であると狂信している。

「恐れ入ります」

「顔を上げろ」

グセルガの言葉にエメザレはゆっくりと顔を上げた。


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