2/5 その厳粛な静寂のなか、重々しい音をたて扉が開いた。 そして、大勢の白い髪の兵士に取り囲まれ、背に剣を突きつけられたまま、その男はやってきた。 たった一人の丸腰の男に対して、お前は敵だ、と言わんばかりの厳重過ぎる警戒のしようだった。 全てが白い宮廷の中で黒い髪の男だけが目立った。 彼にもわかっているだろう。これから起こる自分への惨劇くらい。どれほどの恐怖や痛みと戦うことになるだろう。 その男の顔には今、どんな凄まじい怯えや後悔がうつっているのだろうか。 イウはその男を見ようと身を乗り出したが、兵士に囲まれた男の顔は見ることができない。 「武器は持っていないのだな」 何度も暗殺の危機にさらされたグセルガは、どんなに厳重な警護のなかでも安心を手に入れることはない。常に他人を恐れている。 「はい。何も」 兵士の一人が答えた。 「なら、全員下がれ」 兵士の群れの中から、ひざまずき王に面を下げる黒い髪の男が姿を現した。 「国立軍事教育所ガルデンから参りました。エメザレでございます」 丁寧だが覇気のある声だった。美しいと言ってもいい。 「エメザレ(劣化)か。お前によく合う良い名だな」 グセルガは嫌味を言った。 グセルガは、それしか安心を得る方法を知らないのだろう。 悲しいことだが、グセルガの固く閉ざされ破壊しつくされた心は、それが信用を確かめるのに最も適した手段であると狂信している。 「恐れ入ります」 「顔を上げろ」 グセルガの言葉にエメザレはゆっくりと顔を上げた。 [*前] | [次#] しおりを挟む モドルTOP |