2/7 よく言えば、おもむきがあると言ったところだろうか。古めかしく痛んではいるが、元は貴族の屋敷だけに中はその当時の流行を取り入れた豪華な造りだった。クウェージアでは貴族は白い屋敷に住むのが定番だったが、このスミジリアンではそういう風習はないらしい。全体的に黒い色が使われ、壁紙にはエキゾチックな模様が描かれている。 「あら、セウ=ハルフさん。もうお帰りですの? デミングさんは?」 出迎えたのは美人だが、そう特徴のない顔立ちの若い女性だった。メイドか、と思ったが、それにしては主従を感じさせないような親しみを持っている。 「この人は近所に住んでるマデルミートさん。農作業手伝う代わりに家の手伝いを頼んでるんだ」 とセウ=ハルフは言った。 「そちらのお坊ちゃんは?」 マデルミートは興味深げに彼の顔をまじまじと見つめてきた。この小さな村では外から来る者が珍しいのかもしれない。恥かしくなってセウ=ハルフの後ろになんとなく逃げたが、マデルミートの眼差しはイウに釘付けだった。 「この子は原っぱで寝てたところを拾ってきたんですよ。クウェージアのお貴族さんらしいですけど、ちょっと面倒見てくれます? デミングは、二人揃って巡回に穴を開けるわけにはいかないんで置いてきました。」 「あらま。置いてきたのですか」 そう言いつつも、いつものことなのかそこまで気にする風もなく、マデルミートはそれよりイウの事が気になるようで、セウ=ハルフの後ろに周り込むと彼の頭から足の先までゆっくり見回し急に笑顔になった。 「まぁ、ずいぶんと可愛らしい子ね。綺麗なお洋服着て、さぞかし立派なお家で育ったんでしょうね。せっかくの服が泥だらけ。あたしが洗って差し上げますよ。早く中に入って、暖まって、ご飯も食べてないんでしょう?」 「……ありがとう」 イウが小さく呟くとマデルミートは嬉しそうにイウの頭を優しく撫でた。十四にもなっておかしな話だが不思議と嫌な気はしなかった。むしろ心地よい気分だ。 それにしても疲れた。こんな過酷な旅は無論生まれて初めてである。 マデルミートに勧められるまま田舎臭い部屋着に着替えると、食事せずに彼はそのまま 眠り込んでしまった。 [*前] | [次#] しおりを挟む モドルTOP |