4/9 「ぼくはヴルドンに用はないんだ。どこでもいいからスミジリアン内の町に行きたかったんだけど……道が…わからなくて……」 「ああ、つまり道に迷ったのね」 男は気の抜けた声をだした。 「そのカルテニって村まで連れてってくれない?」 「そりゃもちろん連れてくよ。野垂れ死にされたら夢見が悪いし」 男は悪意のなさそうな顔で言って笑い、それからイウの後ろに目をやった。あまり振り向きたくはなかったが、イウも後ろの存在に目を向けた。 案の定、夜までは暖かかったはずの馬は冷たくなり息絶えていた。幸い、馬に苦しんだ様子はなく眠るようにして召されたらしい。少し不謹慎ではあるが数時間、馬の死体に寄り添って寝ていたのだと思うと小気味が悪くなった。 しかし、この馬がいなければ確実に彼はここまで来ることはできなかった。三度の夜は馬の温もりに助けられたし、孤独を紛らわせることもできたのだ。 「……馬、残念だったな」 「ごめんね」 すぐさま、小気味が悪いと思ったことを詫びるようにして、イウは冷たくなった馬を抱きしめ安らかな目元に口づけた。 [*前] | [次#] しおりを挟む モドルTOP |