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「おい! 大丈夫か!」

という声と共に激しく揺さぶられて翌朝彼は目を覚ました。
夢にかすむ瞳の前に現れたのは白い髪の男だった。三十に届くか届かないかくらいの歳の頃で、そのくせなんとなく少年の無邪気さを捨て切れていないような顔立ちをしていた。
イウを覗き込む男の顔はひどく必死の形相であったので、イウは驚いて一瞬身を硬くした。

「ダルテスにやられたのか?」

イウの驚きに全く気付いていないらしく、男はさらに激しくイウを揺さぶった。

「ダルテス……? いや、ぼくは……ぼくはクウェージアから来たんだ」

言いながらイウはさりげなく無骨な男の手を払った。男のすぐ後ろには、男が乗ってきたのだろう栗毛の馬の姿がある。
辺りはまだほの暗く、朝は明けきっていないようだ。寒さに彼は小さく身震いした。

「クウェージア? お前一人で? クウェージア移民の受け入れ先はヴルドンって町でずっと東の方だぞ。ここはカルテニっていうド田舎の村の果てでお貴族さんが来るようなとこじゃない」

クウェージアの名を出すと、半分冗談のようにも見えるが男は嫌そうな顔をした。イウの服を見て貴族だと思ったのだろう。白一色の服はクウェージアの宮廷でこそ映えるものの、外に出てしまえば――特に田舎などでは、舞台衣装のままで歩いている変人にしか見えない。

男はクウェージアの移民をこころよく思っていないのか、貴族の類が嫌いなのか。
そういえば男の着ている服は安っぽい布でできている。デザインもとりとめのない量産型であることからして、考えずとも男が農民であることはわかった。


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