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北に進めばスミジリアンに着くというエメザレの言葉を信じ、三日、馬を走らせている。
彼のお粗末な計画では一日目の夕方頃にスミジリアンの領土に入り、末端の町か村かで宿泊しオルギアの情報を集めて三日目の――すなわち今日の朝にはオルギアに向けて発つ予定だった。しかしこの有様だ。
太陽を見る限りでは北に向かっているのはずなのだが、町らしきものは一向に見えない。

彼はとにかくクウェージアの外についてはほぼ無知であり、地図上の国々のなんとなくの位置を知っているのみ。スミジリアンはクウェージアの隣国で国交も盛んなため、舗装された道が繋がっているのだが、その道がどこにあるのかわからない。
戦争で何度も国外に出て地理に詳しいエメザレはもっと近道を知っていて、そこからスミジリアンに行くつもりだったのかもしれないが、道を大きく外れた道なき道はただ広い草原で、目印になりそうなものはなにもない。まるで草原の海だった。

孤独に恐怖し罪を後悔し未来を恐れ、それら全てに涙して緑の海を進み続けた。なにせクウェージアに彼の居場所は残されていないのだし、第一戻る道がわからない。止まれば死が待っている。進む以外に希望に繋がりそうな道はなかった。

三度目の夜が訪れようという頃、ついに馬は力尽き地面に横たえて動かなくなった。かろうじて馬はまだ息をしていたが、死が迎えに来るまで、あといくばくもないだろう。

「死なないで……!」

横たわる馬を抱きしめるように覆いかぶさって彼は願った。それは快適な移動手段を失う悲しみ以上に、孤独を恐れて言った言葉だった。
彼は何度も願ったが、馬が立ち上がることはついにないまま無情にも夜の闇が訪れ、そこで夜を明かす以外になくなった。火を起こす道具など持ち合わせていない彼は限りない闇に恐怖しながら、まだ暖かい馬の身体に身を寄せ縮こまり、わずかな温もりにすがって夜が明けるのを待った。


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