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「孤児院育ちだからな。悪しき黒髪の象徴としては素晴らしい経歴の男だ。お似合いの役職だと祝いの言葉でも送ってやりたいものだ」

なぜそんなに憎むんだ!

彼の心は叫んでいた。けれどもこの言葉を口にしてしまったら、かろうじて繋がっている絆のようなものは断ち切れて、この先長い人生を無言と無関心に耐えて生きなくてはならなくなる。王が死ぬまで。
永遠のように長い時間を、常に畏怖しながら生きながらえるのは嫌だ。
これ以上の重圧を支えて生きるのは、このひ弱い王子には不可能な話だった。
悔しくて、彼はただただ肉きりナイフを力いっぱい握り締めていた。

「孤児だと何か悪いことでもあるのですか?」

「ふふ」

気持ち悪いことに鉄仮面のまま、口の片端だけ引きつって王は笑った。

「これ以上、お前が関わることはなかろう」

また部屋の中に静寂が戻った。美味であるはずの食事を味わうこともなく、なにが変わったわけでもないこの環境に毎度ながら嫌気が差した。
 
また何もできなかった。

弱い少年の心は悲しかった。



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