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身体を起こしたのは何ヶ月かぶりだろうか。アスヴァリンの手により、私はなんとか起き上がることができた。
なんの変わりもなかったが、いつもと違う視点で見る部屋は新鮮で懐かしくもあった。

しかし息子リバンの姿は部屋のどこにもない。
傍らにはアスヴァリンと、彼の部隊が運んできた豪華な黒い棺が広い寝室の真ん中に置いてあるだけだ。

「エメザレのところへ連れて行ってくれ」

私は身体を支えているアスヴァリンにしがみついて言った。

「仰せのままに」

アスヴァリンはしっかりと私の身体を抱え込み、ベッドから降ろした。
二度と歩くことなどないと思われた私の足は、力なく床に付きアスヴァリンに身体のほとんどを預けながらもゆっくりと、一歩一歩その棺に歩み寄っていく。

足を踏み出すその度にエメザレとの思い出が蘇り、また蘇り、私の気持ちは逆行し若返って、まるで頑強な戦士のように背を伸ばし闊歩しているような気さえした。
頭の中で展開される記憶たちはどれも、かつては想像もしなかったであろうほどに輝きを放ち、ただ若いという、それだけの美しさで煌々としていた。

棺の蓋は開いていたが、エメザレには白い布が掛けられていて姿を見ることができない。

今にでも駆け寄ってその布を取り払い、彼を抱きしめたいのに。


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