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「そうだよ。別に信じる必要はないけどね」

「エメザレを知らないか?二十九年前お前に会いに行くと言って、そのまま戻らなかった」

私はその少年の言葉を疑わなかった。私は昔、エメザレに起こったある奇跡を目撃していたからだ。
それに私は死ぬ前に、なんであれ例え嘘であったとしても最後の心残りであるその謎の答えが知りたかったのだ。

「知っているよ。あの日にぼくが殺したんだ」

「そうか」

私はとても安らかな気持ちになった。
エメザレは生きていると信じていた。だが死んでいるのだろうと思ってきた。
もし生きていると言われたら、私は彼に会いたいと喚いて無様にも死を拒絶したがったかもしれない。
だが死んでいるのなら私は近く彼に会う事ができるのだ。

「ぼくを憎まないの?」

少年は不思議そうな顔をした。

「私も多くの過ちを犯して生きてきた。この死を目の前にした老人には今更、大昔の過ちを咎める気力は残されていない。それよりも私はエメザレの亡骸を抱くことも叶わず死んでいくのが無念でならない」

私はぼやいた。彼の瞳を顔を身体をこんなにも覚えているのに、それはもはや幻のようで触ることもできずに頭の中にだけ存在し続ける。焦がれても叶わないこの思いは深くしまい込まれて、もうずっとさらけ出したことはなかった。

「わかった。この髪のお礼に願いを叶えてあげるよ」

その時、朝日は完全に昇りきり、それを浴びた少年の姿はまるで光の塊のように輝いていた。

「本当なのか……」

「ぼくは嘘をつかない主義だ。お前が死ぬ前に叶えてやろう。そして無名王よ、静かに眠りにつくがいい」

少年の姿は夢のように光の中に消え、後には朝の暖かい光だけが残っていた。

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