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「近く、黒い髪が一人、宮廷で働くことになった」

「そうですか」

そうきたか。と彼は思った。けして驚いていないわけではないのだが表情は全く崩れない。
灰色の髪の自分ですら、正式に宮廷で働くことが決まったとき、ひどい大騒ぎになった。おかげでクウェージアの国中に拷問師ジヴェーダという名が知れ渡った。
それが黒い髪ともなれば大騒ぎどころではない。無駄な混乱を招くだけ。

白い髪が黒い髪を支配すること四百年。その体制は危うい状態にあり、完全に崩壊する日もそう遠くないだろう。グセルガはそのことに気付くのが遅すぎた。そしてまたこうして無意味な事をする。
黒い髪を一人働かせて一体、どうこの事態を解決するつもりなのか。

愚かな王よ。

心中でぼやいた。

「お前にその黒い髪の面倒をみてほしい」

けして、王は直接的な物言いをしない。ジヴェーダに面倒を頼むということは、つまり拷問せよということなのだが、拷問という言葉をグセルガが口にしたことは一度もなかった。もし誰かを拷問したことで貴族や国民に責められたとしても、ジヴェーダのせいにして逃げることができるからだ。

全ての批判も軽蔑もジヴェーダが引き受ける。それが宮廷拷問師として雇われた彼の役割であり暗黙の決まりごとだった。

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