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「エスラール」

辺りに響いた私の声はとても静かだった。だから、彼はまだ瞼を閉じたままだ。安らかな寝息をたてる彼は何よりも愛おしい。

「エスラール」

今度は耳元で名を呼んだ。そして優しく顔に触れる。

「エメザレ……?」

彼はゆっくりと、夢の世界へ行くようにとてもゆっくりと瞼を開いた。

「エスラール、帰ってきたよ。君のために」

「エメザレ……?」

「そう、私はエメザレ」

私は微笑んだが、彼の顔からはだんだんと血の気が引いてゆく。まるで、醜くおぞましいものでも見るかのように。突然起き上がった彼は、私からじりじりと離れていった。

「ち、違う……、お前はエメザレじゃない。エメザレじゃない。これは夢か?」

「夢じゃない。私はエメザレだ。ほら、よく見て」

私は彼を部屋の隅に追い詰めると、顔を近づけた。月明かりを借りて彼の瞳に映る私は、かつての、あの輝かしい時を生きた、その時の顔だった。
どこが違うというんだ。まるで違わないのに。

「俺に近づくな! 触るな!」

そんな罵声と共に、思い切り突き飛ばされた。途中でテーブルにぶつかってバランスを崩し、床に倒れこんだ。そのまま、私は起き上がりたくなかった。


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