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「ヴィゼル、戦争はいつ起きる?」

その質問をした途端、彼の瞳はにわかに濁った。

「それは……、なんていうか、エスラール次第なんだ」

「なるほど。なら、エスラール次第というより私次第、といった方が正しいのかな」

ヴィゼルが言いにくそうな顔をしていたので、私が代弁した。

「そいういことになるな」

「私をどうしたい」

きっと、彼にはこの言葉だけで私の言いたいことが伝わっただろう。その証拠に彼は黙ってうつむいた。

「構わないよ」

私は優しく言った。ヴィゼルはとても優しいから、心を痛めているのだろう。でも、何かを変えるためには、必ず犠牲が付きものなのだ。私は小さい存在だ。小さい犠牲のために、何も悩む必要などない。

「ねぇ、ヴィゼル。この頃、よく昔のことを思い出すよ。おかしいね。大半は戦争と殺人の記憶なのに、何故か思い出すのは楽しいことだけなんだ」

ヴィゼルはうつむいたままで、何も言わない。

「何がそんなに楽しかったんだろうね。ただひとを殺していただけなのに。でも、今に比べたら、それですら楽しく感じられる」

「……エメザレ」

小さな声で、彼は苦しそうに呟いた。両手で頭を抱え込んで、しばらく彼は動かなかった。

「エスラールと話をしてくる」

立ち上がったヴィゼルの顔には、静かな覚悟があった。

「いってらっしゃい」

私は彼の背中を見送った。閉まるドアの音。一人になった部屋の中は一瞬にして闇の世界になった。


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