2/14 「ヴィゼル、戦争はいつ起きる?」 その質問をした途端、彼の瞳はにわかに濁った。 「それは……、なんていうか、エスラール次第なんだ」 「なるほど。なら、エスラール次第というより私次第、といった方が正しいのかな」 ヴィゼルが言いにくそうな顔をしていたので、私が代弁した。 「そいういことになるな」 「私をどうしたい」 きっと、彼にはこの言葉だけで私の言いたいことが伝わっただろう。その証拠に彼は黙ってうつむいた。 「構わないよ」 私は優しく言った。ヴィゼルはとても優しいから、心を痛めているのだろう。でも、何かを変えるためには、必ず犠牲が付きものなのだ。私は小さい存在だ。小さい犠牲のために、何も悩む必要などない。 「ねぇ、ヴィゼル。この頃、よく昔のことを思い出すよ。おかしいね。大半は戦争と殺人の記憶なのに、何故か思い出すのは楽しいことだけなんだ」 ヴィゼルはうつむいたままで、何も言わない。 「何がそんなに楽しかったんだろうね。ただひとを殺していただけなのに。でも、今に比べたら、それですら楽しく感じられる」 「……エメザレ」 小さな声で、彼は苦しそうに呟いた。両手で頭を抱え込んで、しばらく彼は動かなかった。 「エスラールと話をしてくる」 立ち上がったヴィゼルの顔には、静かな覚悟があった。 「いってらっしゃい」 私は彼の背中を見送った。閉まるドアの音。一人になった部屋の中は一瞬にして闇の世界になった。 [*前] | [次#] しおりを挟む モドルTOP |