9/11 「お待たせ」 三十ページほど読んだところで、あつあつの卵焼きをトレーにのせてエスラールが入ってきた。 「ありがとう」 続きが気になったが、私はそっと本を閉じて枕元に置いた。 「パンも食えよ」 「食べれたら、食べるよ」 卵焼きの隣にのっけてきたパンを彼は押し付けてきたが、苦笑いをしてトレーに戻した。食欲が全くわかないのだ。 「卵焼きは残したら怒るぞ」 「わかった。ちゃんと食べるから」 「食わせてやるよ。ほら、あーーん」 エスラールは自分の口を大きく開けながら、私の口元に山盛りの卵焼きを近づけてくる。一瞬、いい大人が二人で何をやってるんだろう、とは思ったが、素直に口を開けてみた。 「ヴィゼルが明日うちに来るってさ」 「ヴィゼルが? 懐かしいね。いつも本当にお世話になっているから、盛大にもてなさなきゃ。なんてお礼を言えばいいだろう」 「あんまりお礼を言い過ぎると、ヴィゼルが困るよ。そういうの苦手なんだ。あいつ」 そういえば、昔から褒めたりお礼を言ったりすると怒る癖がある。早い話が照れ屋なのだ。昔と変わっていないヴィゼルが少し羨ましかった。 [*前] | [次#] しおりを挟む モドルTOP |