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「お待たせ」

三十ページほど読んだところで、あつあつの卵焼きをトレーにのせてエスラールが入ってきた。

「ありがとう」

続きが気になったが、私はそっと本を閉じて枕元に置いた。

「パンも食えよ」

「食べれたら、食べるよ」

卵焼きの隣にのっけてきたパンを彼は押し付けてきたが、苦笑いをしてトレーに戻した。食欲が全くわかないのだ。

「卵焼きは残したら怒るぞ」

「わかった。ちゃんと食べるから」

「食わせてやるよ。ほら、あーーん」

エスラールは自分の口を大きく開けながら、私の口元に山盛りの卵焼きを近づけてくる。一瞬、いい大人が二人で何をやってるんだろう、とは思ったが、素直に口を開けてみた。

「ヴィゼルが明日うちに来るってさ」

「ヴィゼルが? 懐かしいね。いつも本当にお世話になっているから、盛大にもてなさなきゃ。なんてお礼を言えばいいだろう」

「あんまりお礼を言い過ぎると、ヴィゼルが困るよ。そういうの苦手なんだ。あいつ」

そういえば、昔から褒めたりお礼を言ったりすると怒る癖がある。早い話が照れ屋なのだ。昔と変わっていないヴィゼルが少し羨ましかった。

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