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「ああ、そうだよな。ごめん。何か作ってくるよ。何が食べた
い?」

「なんでもいいよ。あんまり手間のかからないものでいいからね」

そう言うと、エスラールは大きくため息をついて立ち上がった。

「いつも、そればっかり! たまにはなんか、リクエストでもしてくれないとやる気がでない」

少年のように頬を膨らますエスラールの顔が、無性に可笑しくて私は笑った。

「じゃあ、卵焼きね。甘口で」

「おう! 任せろ」

はりきって部屋を出て行く彼の背中を見送って、閉まるドアの音で私は現実に引き戻される。
ここは墓場なのだと。もっと苦しめと。一生、床を這いずっていろと。
いらない言葉たちが私を襲ってくる。期待を裏切られた民衆の叫び声。罵る声。皆、私を恨んでいる、いやな言葉たち。

だから、私はそれを振り切るために、さっきの本を開いた。本は別世界の入り口だ。私はいつだって本の中では自由に手を動かせるから。
本からは古い香りがする。かび臭くて湿った臭いだけれど、どこか心地よい。柔らかな皮の表紙をめくってみれば、中はひどく汚れていて、書かれている文字がどうにか読めるくらいの状態だった。かなり注意して紙をめくらなければ、簡単に本自体がばらばらになってしまいそうだ。
私はその本を注意深く膝の上にのせ、どうにか自由の利く右手を駆使して読み始めた。

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