6/11 「そうだね。私らしくない」 私は一生懸命に笑った。少しでも前の笑顔に似るように。少しでも昔に戻りたくて。 でも実際は、硬くなり不自然に再生した皮膚が、わずかにつりあがっただけだろう。 どんなに醜い顔で私は笑っているのだろう。 「それよりも、エスラール。どんな本を買ってきてくれたの?」 「やっと機嫌を直してくれたか」 彼は嬉しそうに言うと鞄の中から古臭い本を取り出した。 表紙は焦げ茶色ですすけた金で装丁が施されている、分厚い本だった。 そこには意外な文字が刻まれていた。 「シクアスの本だね」 「確か、昔シクアス語を訳すのが好きだって言ってたよな」 「好きというか、敵の言葉だったから使えるといろいろ便利だったんだ。でも君にはそう言ったかもしれないね」 彼が少しがっかりしたような表情をしたので、あわてて私は彼を気遣った。 「それより、お腹がすいたよ」 また嘘をついた。食欲など皆無なのに。 エスラールの暗い顔は嫌いだ。 [*前] | [次#] しおりを挟む モドルTOP |