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 彼は朝までテラスから都市の様子を伺っていたが、思っていたよりも諸侯の召集はうまくいったようで、まだ暗いうちからちらほらと馬車が城に入ってくるのが見えた。
 
 日の出を知らせる鐘と同時に、リンドーラ王国最後の議会は開かれた。集まった諸侯は想像していたよりもかなり多い三十五人。そのうちリンドーラ十二州の領主は四人だったが、領主代理を含めれば六人になった。
 
 議場には、リンドーラに住むエクアフ種族、シクアス種族、ダルテス種族が分け隔てなく列している。三つの種族が一つの国に住み、そして住んでいる全ての種族が議会に参加できるのはこの世界でリンドーラだけだった。彼には慣れきったなんということもない光景だったが、改めてこれこそが新しい時代の姿だと思った。この姿勢ははるか未来まで受け継がられねばならないのだ。

 議場はメルヴィトゼンの入場に気付かないほど騒がしかったが、そんなことを考えていたために彼は存在を知らせることも忘れてしばらく黙っていた。

「諸君!」

 と怒鳴ったのは、しかしメルヴィトゼンではなく、彼の宰相を務めるラズーニンだった。

「ご苦労。ラズーニン」

 一応の礼を述べてから、彼は中央に向き直り、にわかの静寂の中で彼は堂々とした気風で言った。

「私は世界機構より召集を受けた。私は今日これより世界機構へ赴かねばならず、いつ戻れるかわからない」

 とこの一言だけで当然ながらまた議会はざわめきに包まれた。メルヴィトゼンはできるだけゆっくり丁寧に説明する気でいたので、ざわめきが収まるのを多少気長に待っていたが、その中で一人のシクアス種族の男が黙って手を挙げた。彼は「意見を述べよ」という意味でシクアスの男に手をさし向けて促した。

「ラルグイム州領主、ミラズ・フェキテン候」

 気を利かせたラズーニンが、男の名をメルヴィトゼンに教える意図を含んでシクアスの男を呼んだ。
 ミラズはおどおどと立ち上がり、気弱そうな顔に精一杯の勇気を湛えて、軽く一礼し口を開いた。

「恐れながら、世界機構というのは、大陸のどの辺りにあるのですか? そして世界機構というのは……一体なんなのですか」

「世界機構とは、この世界に基本的には干渉せず、物質的にはどこにも存在しないが、しかし絶対的に世界を支配している、完全な個体の集合体で神ではない存在だ」

 可哀想に思うが、彼にもこの答えようしかない。

「あ、はい。かしこまりました。そうでございますか……ですが僕には……いやいや、それで、あの、アンヴァルク=リアス様はこの会議に出席なさらないのですか?」

 メルヴィトゼンの返答に、明らかに困惑した様子のミラズは話題を変えてきた。

「リアスは私の友人だが、リンドーラとは直接関係ない」

 そうは言ったが、これは建前である。本来ならば同席して状況の説明を簡潔にして欲しかったのだが、アンヴァルクは嘘をつけない。もし、「本当にメルヴィトゼンはリンドーラに帰還するのか」と問われた場合、リアスは「答えられない」と言うか沈黙するしかないのだ。
 したがってリアスをここに連れて来る事はできず、自室に置いてきたのだが。

「陛下」

 今度手を挙げたのは、エクアフ種族のひどくやつれた黒い髪の若者だった。

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