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 早々に、メルヴィトゼンは明日早朝に緊急議会を開くよう命令したが、今日の明日ではリンドーラの中心人物を全て召集するのはとても無理である。広いリンドーラでは端から端まで移動するのに最短で一ヶ月以上はかかるのだ。王都ヒューダスはリンドーラのほぼ中央に位置しているが、一日で行ける距離にある都市は限られている。

 しかし幸いなことに、定期的に開かれる『リンドーラ外交会談』が半月後に迫っていたため、出席する地方諸侯は地方から王都ヒューダスに向かっている道中にあった。すでに王都に到着している諸侯も少なからずいたので、とにかく一人でも多くの諸侯を招集せよと大量の使者を送ったが、どれほどの人数が集まるかは予測できなかった。
 
 リンドーラは十二の州にわかれており、メルヴィトゼンは基本的に十二の領主による自治を認めていた――とはいえ非道な統治に対してメルヴィトゼンの制裁は厳しかったが。それ以外のことについてはあまり口を出したりはしなかった。多種族国家ゆえに宗教や文化の違いが各々あるため、安易に一つの事柄を禁止すればたちまち市民の不平が蔓延すると彼は知っていたのだ。その土地にはその土地に合った支配をしなければならない。この考えの下、リンドーラは千年の安泰を護ってきた。

 それでもリンドーラにおいて王権は絶対であり、王権を行使した場合、十二領主は必ず従わなければならいという最高の掟があった。しかしそれが行使されたのは、リンドーラ四千年の歴史の中でたったの二回だけである。

 今回、三回目の行使をするかもしれない。
 こうしたことは前例にならって宰相に相談した方がよいだろうと、メルヴィトゼンは宰相を自室に呼び寄せた。

 
 こうしてこの宰相の顔をしっかり見るのは、初めてなような気がする。そして彼が個人を意識して話すのも、おそらくこの宰相がその地位に付いてから初めてのことだった。
 なにしろ彼は数万年を生きているのだ。その知識力や経験はヴェーネンの比ではない。なにをするにも誰かに相談する必要も能力を借りる必要もなく、それでいて今まで物事を全て円滑に済ませてきたのだから。宰相という地位はほとんど名ばかりで、彼が宰相に意見を求めることはあまりなかったし、彼に意見してくる宰相も未だかつていなかった。しかしそれは年の違いを考えるならば当然のことであり、年下の宰相を置く必要などない気もするが、メルヴィトゼンとしては宰相を置くことで、自分はいつでもひとの話を聞く耳を持っている、または聞くつもりがあるということを主張したかったのである。

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