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「――アルトの石。なぜお前が持っている」

 メルヴィトゼンが嘘をついたことに、なんの怒りも感じていない、驚きすら含まれていない無感情な声だった。

「おれはデネレアとの最後の戦で、アルトの石の譲渡を条件にアシディアを逃がしたんだ。そしてずっとおれが守ってきた。」

 このアルトの石さえアシディアの手元からなくなれば、易々とアシディアの勢力は復興できないだろう。アンヴァルクの遺産の力を行使するという脅威さえなくなれば、殺す必要はなくなる。いや、殺さなくても済むと。彼はそう考えた。残念ながら、それは完全なる過ちではあったが。
 静かな顔で話を聞くリアスを置いて、さらにメルヴィトゼンは続けた。

「確かにアンヴァルクは機構が望む限り何度でも復活する。だが、機構が望まなければ、機構との規約を破り機構がお前を削除すれば、お前は死ぬ。そしてアンヴァルクはアンヴァルクの遺産の所持を認められていない……。言っていることがわかるか、リアス」

 リアスは答えずに長い瞬きをした。

「これを飲み込め。リアス。おそらくアルトの石は体内で完全分解されずにお前の一部になる。アンヴァルクがアンヴァルクの遺産と融合するというタブーを犯せば、確実にお前は削除される。いや、運がよければアシディアのように機構が削除できない存在になれるかもしれない。もしくは全く違う何かに変化して、ことによれば心を持てるかもしれない。どうなるのか、おれにはわからないが……。リアス、おれと死ぬのは嫌か」

「それが、お前の答えなのか。メルヴィトゼン」

 相変わらず、深い海色の瞳にはなんの感情も宿していない。

「それが最後に望むことか」

 リアスはもう一度聞いた。

「そうだ」

 メルヴィトゼンはうつむいた。
 なんと残酷なことを言っているのだろう。そしてアンヴァルクにそんなことを言う自分は、なんと甘く弱く恥さらしでかいぎゃく諧謔的なのだろうか。彼は情けない自分を心の中で嘲笑った。返ってくるであろう答えをほとんどわかっていたので、リアスの長い沈黙が苦しかった。
 しかし――

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