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「確かにお前との友情ごっこは心地よかった。お前にだけは本音が言えた。でもそれはお前が無条件に頷いてくれる人形だったからだ。
おれが泣いたとして、お前はおれに失望することも哀れむこともない。お前はおれが『泣いている』という事実以外なにも思わないだろう。なにも思われないのはおれにとって、都合がよかったし、神のように崇拝されるよりましだった。
だからおれは長く友情ごっこを続けてお前に頼ってきたんだ。だが、あくまでも言葉遊びの延長線上にある『友情』だよ。お前が言っているのはただの言葉、ただの理屈だ。心は数式じゃないんだ。矛盾だってたくさんある」

「そんなことはわかっている。しかし我々には理屈で友情を理解する他に方法がない。ならば理屈で友情を表現するのはどうすればいいのだ? どうすればお前に私の友情を理解してもらえる。どうすれば私を友人だと認めてくれる」

 いつまでもわからないリアスに腹が立った。
 その悲しそうな顔。死を前にした友人に裏切られ、さも己は憐れであろう、というような表情をこのアンヴァルクは正確に漂わせていた。リアスの感情表現はぎこちない部分もあったが、時折見せるこの繊細な表情にはなにかを掻きたてるものがあった。
 それは友情に似たなにかだったり、あるいはもっと深いものだったりしたが、今は怒りを掻きたてられた。

「友人だと。笑わせるな、アンヴァルク!」彼は怒鳴った。「 お前に、お前なんかに何がわかる。おれの、像にすら頼りたくなるような惨めな気持ちがわかるのか! もしお前がアンヴァルクでなかったらと――いつも愚かにも期待して何度も失望して、それでもまた期待して、自分のばかさ加減に腹が立って、どんなに叶わないことだと承知していても、それでもどうにもならないこの心の哀れさが、ほんの少しだってわかるものか」

「私がアンヴァルクでなかったら? アンヴァルクでなければ、まず私は存在していないと思うが」

「そういう意味じゃない」

 と返したが、自分でもどういう意味で言ったのかよくわからなかった。どうにもひどく頭が混乱しているようだった。

「メルヴィトゼン。私はお前をいつも、いつまでも友人だと思っている」

「おれと友人でいたいなら……、それなら、おれと死んでくれるか。リアス」

 彼は言った。口が勝手に動いたように思えた。それでもリアスの瞳は冷たく深く穏やかな海底に似た静かさだった。

「アンヴァルクは死ねない。アンヴァルクは存在し続ける」

 そしてアンヴァルクはまたお決まりの台詞を言ってのけた。

「そうだな。リアス。だが、今おれはこれを持っている」

 残酷な気分で微笑みながらそう言うと、メルヴィトゼンは隠すように着けていた首飾りを取って見せた。くたびれた茶色い紐に付いている、小さな白い宝石を。

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