6/6 彼らが馬の支度を終え外に出ると、城の庭には城門に架けて、ずらりと国王軍のリンドーラ騎兵が整列し剣を掲げて、王の出立を送っていた。 幾枚ものリンドーラの紋章旗が風になびき、強い日差しはメルヴィトゼンを祝福するように旗を照らしている。まるで戦へ赴くかのごとくに荘厳で勇ましい直線の陣形が美しかった。そのようなことを命じた覚えはなかったので、ふいに現れた圧倒的な国王軍の軍勢にメルヴィトゼンは驚いた。 そして隊列の一番手前にはラズーニンの姿があった。 「ラズーニン、お前か」 「わたくしには、このようなことしかできませんが……。陛下、あなた同じ時を生きられたこと、誇りに思います」 「ラズーニンよ、お前の名はなんと言う」 メルヴィトゼンはひざまずく老人に聞いた。おそらくラズーニンが何十年も待ち焦がれ、もはや諦めていたであろうことを。 「わたくしの名は――」 老人の目は見開かれ、いっせいに湧き上がった涙が、その人生を集約するようにしわだらけの頬を伝った。 「わたくしの名は、アズール・マダキュナーデでございます!」 長身の老人は丸まった背を精一杯に張り、無敗の戦士のように堂々とした気風でその名を口にした。 「ご苦労だった。アズール・マダキュナーデ」 そう言って、メルヴィトゼンは己が乗る馬の横腹を蹴った。 城から遠ざかるメルヴィトゼンの背後では、リンドーラ城の低い鐘の音がいつまでも響いていた。 [*前] | [次#] しおりを挟む モドルTOP |