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「十二州の領主はすでに州での権力をすでに確立しているし、経験上共和制では国の意思決定が遅れてしまう。長期的に考えれば理想の体制かもしれないが、私が不在であることが知れれば、必ずどこかしらの国が攻めてくる。
戦時下で共和制は――しかも共和の経験のないリンドーラが何の知識もなしに成り行きで成立させた共和制では絶望的に不利だ。

そして滅びてしまえばリンドーラは完全に終焉するが、分裂した十二の国の一つでも生き残ればリンドーラが本当の意味で終焉することはない」

 考えというのは、つまりそういうことであった。リンドーラの存在を僅かな断片でも未来に繋げること。
 確かに、何百年でも何千年でも王を待つことは、「伝説を語り継ぐ」という意味ではできるかもしれない。しかしそれはリンドーラが存在してこその美談である。このリンドーラという国の破片をできるだけ長く世界に残しておきたいのであれば、その手段は多数あった方が良い。十二の頭が導いた不完全に素晴らしい一つの答えより、十二の頭が導いた十二の答えの中に必ず未来に続くものがあると、彼は信じたのだった。

 そしてさらに、彼は続けた。

「旧ヴェーネンは皆、機構より召集を受けたのだ。つまり、世界七王国の統治者は全て留守となる。となれば戦乱の時代は避けられないだろう。この先、リンドーラが、世界がどうなるのか、よもや誰にもわからない。リンドーラの十二の領主達よ。そなたらはけして互いに争うことなく、お互いを助け合い各国を護り統治せよ。これは命令だ。私はリンドーラ王の名において王権を行使する」

 しかし、議場はいつまでも静かなままで、賛同の意を唱える者は現れない。メルヴィトゼンは居た堪れない気分になった。彼はいままで絶対王政を貫きながらも、王権を振りかざすことはけしてしてこなかったつもりであるし、姉のようにひとの話を聞かず自分の物差しでしか物事を計れない、視野の狭い人間にはなりたくなかったので、人一倍そういったことに気をつけていた。だが最後の最後で彼は権力によって物事を解決させ、リンドーラを完結させてしまったのだ。
 その無念さといったら途方もない。彼はこの結論が間違っているとは思わなかったが、全員の賛同を得る前に強制的に解決してしまったことが実はひどく悔しかった。

 これは罰だ。と彼は思った。愛することを諦め、個人を廃絶した付き合い方をしてきた罰なのだ。そう考えると自分がとんでもない暴君だったようにすら感じた。もしかしたら、あのアシディアと大差なく、偏見を持ってリンドーラに君臨していたのかもしれない。

「私をどうか許してほしい。私はヴェーネンとの交流を長らく意図的に避けてきた。なぜなら、お前たちは死んでしまうからだ。私にとって百年はほんの一瞬の出来事に過ぎない。例え理解し合えたとしても、愛を分かち合えたとしても、一瞬一瞬を常に悲しみで過ごしたくなかった。それが怖くて……私はずっと逃げてきた。孤独である方がまだましなような気がして……すっと。私はお前たちのことを何も知らない。名前すら覚えていない。もし私が逃げずに立ち向かっていれば、新しい指導者をすぐに決められたことだろう。こんな風にお前達を悩ますことはなかった。すまない。私はリンドーラを国民を……護ることができなかった」

 これは、彼が偉大王と呼ばれるようになってから、初めて家臣に吐露した本音であった。

「謝罪などならさらないでください! 貴方様は雲の上の、天上のお方、偉大王メルヴィトゼン陛下にあらせられます。誤謬(ごびゅう)を犯すことなどありえません」

 そう叫んだのはラズーニンだった。

「わたくしは命の限り陛下にお仕えいたします」

 メルヴィトゼンの前まで進み出でラズーニンはひざまずきそう言った。

「感謝する。ラズーニン」

 たった一人の賛同者が、彼にとってはこの上ない救いであった。

「このミラズ・フェキテンも最後まで陛下にお仕えいたします!」
 
 とラズーニンの横にひざまずくと

「アンダール・ナルデセーレもお仕えいたします」

「無論、サイファナルド・リデ=ボルティーリュもでございます」

「陛下のリンドーラご帰還まで、我々が必ずや領土をお守りいたします」

 次々と諸侯達は立ち上がり、そして一人残らずメルヴィトゼンの前にひざまずいた。

「感謝するよ。ありがとう」

不意に彼は涙ぐんで、微笑みながら言った。

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