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「あ、あの……陛下、いつ戻れるかわからないとのことですが、それは一ヶ月二ヶ月の長さですか。それとも数年、あるいは数百年数千年、という意味ですか」

 これでも一応機会を伺っていたのか、会話の切れ目を狙ってミラズが口を開いた。

「それが……わからない」

「しかし、必ず帰還されるのですよね」

 と聞いたのはリデ=ボルティーリュだった。

「――そう。私は再びリンドーラに戻ってくる。絶対に」

 噛みしめるようにそう言ってから、メルヴィトゼン唐突には立ち上がった。背の高さも手伝ってメルヴィトゼンの聳え立つ威厳は、瞬く間に広い室内を支配した。

「そこで諸君に頼みがある。私がリンドーラに帰還する時までリンドーラを護って欲しい。私が帰還するまでリンドーラの十二州は独立した国家となり、十二領主は各国を死守せよ。そして私がリンドーラに帰還した後は改めてリンドーラを統合し統治することを約束しよう」

 だがその言葉で、またしても議場は不安のざわめきに包まれた。
 メルヴィトゼンの横に立つラズーニンの顔が、にわかにこちらを向いたのがわかった。昨日のラズーニンとの会話では、リンドーラを十二に分割するという議題は一切出ていない。全くの独断であったが、しかしもちろん彼には彼の考えがあった。

「陛下」

 次に言葉を発したのは落ち着いた感じのダルテス種族の大男だった。

「ガロ州領主、アンダール・ナルデセーレ侯」

「陛下のご命令どおりに致しますと、リンドーラは十二に分裂して……つまりそれは――少なくとも歴史上ではリンドーラの滅亡を意味します」

「そうだ。しかし国の名前などどうでもいい。私が一番に守りたいのはリンドーラの在り方だ」

「ですが、リンドーラの全てを護れる手段が必ずあるはずです。例えば共和制、共和制ならば、陛下の才にとてもおよばない凡愚な我々でも十二の知恵を合わせれば、きっと、きっとリンドーラを統治することが叶うはずです」

 ナルデセーレは冷静な面持ちで、少しメルヴィトゼンをなだめるように言ったが、焦りや不安が言葉の端々に現れていた。

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