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「アイグラード州領主、サイファナルド・リデ=ボルティーリュ候」

「リデ=ボルティーリュでございます。このような場にお招きいただき光栄に思います」

 ラズーニンに呼ばれた男は優雅に立ち上がり、メルヴィトゼンに向かって場違いな丁寧さでお辞儀をしてみせた。

「続けよ」

「それでは失礼を致しまして、なぜ突然に召集されたのでしょうか? 私は機構をよく知りかねますが――実を言えば先ほどまで世界を裏で支配する秘密結社だと信じておりましたが、そのような神であって神でない、どこにも存在しないはずの秘められた世界機構が唐突に存在を現して、そして我らが偉大王を招集し返さないかもしれないというのは、あまりにも勝手すぎるというものです。召集に逆らうことはできないのですか? そしてなぜ従わねばならぬのですか」

「旧世界での戒律上、それが有効な旧ヴェーネンはこの召集に逆らうわけにはいかない。従わなければ死あるのみだ。それが世界機構であり、そして世界機構の考えは世界中の誰にも理解できない」

 これは嘘というわけではない。旧世界で旧世界機構が定めたの掟には旧ヴェーネンは旧機構の命令に従うこととある。実際のところ、新世界でも世界機構に旧ヴェーネンもヴェーネンも支配されているので状況は変わっていないのだが、旧世界では旧機構を知らない者などいなかったのに対し、新世界では機構の存在が認識されていないせいで、そんな掟がこの世にあることをヴェーネンは知らないのである。

「そもそも本当に、陛下は機構へ行かれるのでしょうか」

「リデ=ボルティーリュ! 無礼にもほどがある。陛下に陳謝されよ」

 リデ=ボルティーリュの物言いに、その老体が思わず心配になるような剣幕でラズーニンが怒鳴った。

「いや、リデ=ボルティーリュよ、お前がそう言うのは当然のことだ。率直な意見ありがたく思う。そう、誰も理解できない、どこにあるのかわからない世界機構とやらへ、ある日突然に行くと言えば誰だってまずそう思うだろう。しかし、私がリンドーラを、お前達を、国民を捨て去る理由はなにか、と問いたい。私は四千年の間リンドーラを護り続けてきた。愛してきた。その私が、この国を捨てる理由が果たしてあるだろうか」

「愚問でございました。お許しを」

 リデ=ボルティーリュは慌てて、自らの失言を恥じるようにうつむいた。

「それでも、もし私のいう事が信じられないのならば、私はそれまでの王であったということだ。お前達のせいではない」

「申し訳ございませんでした。お許しを、我が陛下。どうかお許しください」

 特にリデ=ボルティーリュに向けて言った言葉ではなかったのだが、リデ=ボルティーリュは何度も詫びの言葉を口にした。

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