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「申し訳ありません、無知なわたくしめにお教えください。陛下……世界機構とはなんなのです」

 メルヴィトゼンはこれまで、ヴェーネンに対して世界機構の存在をほとんど話してこなかった。気の毒なラズーニンが唸るのも仕方ない。

「世界機構は……この世界に基本的には干渉せず、物質的にはどこにも存在しないが、しかし絶対的に世界を支配している、完全な個体の集合体で神ではない存在だ」

 世界機構はなんなのか。こちらがアンヴァルクに問いたいくらいだが、いくら問うてもその答えが理解できない。今の答えはリアスの受け売りだなのだが、これで誰が機構を理解できるというのだろうか。違う質問のしかたをしても返ってくるのはこの定型文だった。アンヴァルクは機構の説明に対して、それ以外の答えを持ち合わせていないらしい。
 
 しかしメルヴィトゼンが機構の話をこれまでヴェーネンにしてこなかったのは、むしろ存在を隠しておきたかった理由は、答えが明確でないからではなく、世界に神がいることを推奨したかったからである。
 旧世界で存在したエルドとレストは削除され新世界にはいないのだから、神に祈ることも救済を願うことも言ってしまえば無意味なのだが、正しく優しく絶対的な存在はたとえ実在しなくとも、その概念だけで多くを救う事ができるのだ。ならば、いない神でも崇拝する価値は充分にあるのではなかろうか。

「は、はぁ」

 ラズーニンは不憫にもそのまま口を閉じてしまったので、メルヴィトゼンは話を進めた。

「この国でもっとも力を持ち民衆の支持を受け、心強くも慈悲深い人物は誰か」

「それは陛下自身であらせられます」

 厳しい顔つきのままで、ラズーニンはすぐさま答えたが、もちろんそんな答えを望んで彼は質問したのではない。多少の苛つきを感じつつも、しかしそれは社交辞令でもなんでもなく、本当にそう思って仕方ないのだという情熱だけは伝わってきたので、メルヴィトゼンはため息をついた。

「私以外では? リンドーラで私に代われる者は」

「おりません。陛下に代わる存在はこの国にありません。いるはずがないのでございます。何万年もの陛下の人生において蓄積された知識と経験、完成された統治能力は、百年も生きることのない我々が取得できるはずがございません。貴方様の天与の地位はおいそれと、限りある命の者が取って代われるものではないのでございます」

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