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「その頭部がどうなったか覚えているか?」

 アンヴァルクはアンヴァルクの遺産の所持を認められていない。世界再構築時に発生した五つのアンヴァルクの遺産のほとんどは、もちろん使用しないことを前提に旧ヴェーネンに託された。
 それから幾万年が経っている。今ではそのアンヴァルクの遺産がどこにあるのか、おそらくアンヴァルクにもわからない。

「確かパラデューレの王エイレアンに管理を依頼したが拒否されたので、アンヴァルクがどこかへ隠したと聞いたが」

「そうだ。ゼーレの頭部の処理を任されたアンヴァルク=ディースはヴェーネンが立ち入らないであろう永久凍土の地下深くに埋めたのだ」

「つまり永久凍土の地下にあったゼーレの頭部に何者かが接触したということか」

 そんなところに埋めたのか。
 知ったところでどうもならないが、長い間、気になっていた謎が一つ解けた。
 確かに、全知であるゼーレの頭部から情報を引き出すことに成功すれば、機構を占拠する方法も知る事ができただろう。

「盲点だったが、永久凍土に隣接するヘレイネ山脈の一帯は鉱物資源を大量に含んでいた。ヘレイネ山脈の南側に位置する国、アーダヴェージェは永久凍土に向けて地下を掘っていたのだ。そして偶然にそこで働いていたシクアス種族の少年、スギスタがゼーレの頭部を掘り当てた」

「……なんてことだ」

「だが幸運にもスギスタはゼーレの頭部本体を持ち去らなかったので、我々はゼーレの頭部を回収したが、アンヴァルクはアンヴァルクの遺産の所持をできない。端末体はゼーレの頭部を、ある旧ヴェーネンに預けよと命令した。その旧ヴェーネンの名は――」

 そこでなぜかリアスは言葉を詰まらせた。アンヴァルクが言葉を詰まらせることはありえない。メルヴィトゼンを気遣っての演出である。本能的にその先の言葉を聞きたくないと思った。

「その旧ヴェーネンの名はアシディア。お前の姉だ」

「ばかな」
 
 叫ぶ気も起きないほどの憎悪。いや、これは憎悪でないのかもしれない。むしろ恐怖か。とにかくアシディアの名を耳にする度、えづくほどに寒気を感じる。しかし悲しくもそれは自分の姉である。
 かつて世界を悪政で支配した超巨大帝国デネレアの女王アシディア。それに終止符を打たせたのは他でもないメルヴィトゼンだったが、彼は肉親としてずっとそれを負い目に感じていた。彼がアシディアとは全く逆の理想を掲げて平等国家リンドーラを築き上げたのは、ヴェーネンに対してのささやかながらの償いでもあった。

「ばかな、そんなことが……機構はなぜそんな危険を冒した! アシディアに……あの女にアンヴァルクの遺産を託したら……間違いなくその力を使って世界征服を試みる。あの女が置かれていた状況を機構は知っていたはずだ! それなのになぜ、わざわざ多数いる旧ヴェーネンの中からあの女を選んだ?」

「アンヴァルクは機構の意を理解できないし、機構はいちいち説明もしない。我々は絶対的な機構の使者だ。機構からの命令に疑問を持たないよう設定されている。しかし、機構の命令に疑問を持つ理由にはならないが、確かにアシディアが取る行動は我々には予想できた。そして予想通りアシディアはゼーレの頭部を使用し、ゼーレの脳と融合した」

「なんてことだ」

 深い深い後悔の念がメルヴィトゼンを苦しめた。

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