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「やめろ、アンヴァルク」

 その手をなぎ払い、ふと顔を見ればそこには多少の悲しみを含んだ、冷静なアンヴァルクが佇んでいる。変わらない顔に腹が立った。心のない永遠を生きる存在が今の彼にはこの上ない当て付けである。つい彼は荒い情緒が赴くまま、リアスに掴みかかりやり場のない怒りを込めて首を締めあげた。アンヴァルクの、独特なヴェーネンとは違う皮膚の感触――冷たい粘土のような、静物を感じさせる感触が首に食い込む指先に染み渡る。
それでもリアスは静かで、もはや安らかさを含んだ表情のまま抵抗もしない。

「ヴェーネンにアンヴァルクは殺せない。アンヴァルクは存在し続ける」
「知っている! そんなことくらい……わかっている」
 
 首を締めているメルヴィトゼンの方が、むしろ苦しそうに言った。
 そう、例えリアスの喉を引き裂き身体を引き千切って火山口に投げ入れたとしても、アンヴァルクは何度でも、機構が望む限りは永遠に無限に、変わらぬ姿でこの世界に現れる。絶対的な機構の使者。アンヴァルクはそれ以外の何ものでもない。それがアンヴァルクの正しい存在の仕方なのだ。

「わかっている」

 お前は悪くない。
 メルヴィトゼンはもう一度同じ言葉を繰り返し、リアスの首から手を放した。そして妙な脱力感を覚えリアスの身体を伝ってずり落ちるように床に座り込んだ。

「落ち着け。落ち着いて私の話を聞け」
 
 優しいリアスは力をなくした彼と同じく床に座ると、まるで母が子を諭すように柔らかく彼を抱きしめた。
 最後にこうして誰かの胸に顔を埋めたのはいつだったか、と彼は考えたが、もうそうしたひとの名前すら忘れてしまった。ともかく遠く昔の話である。メルヴィトゼンは十八回結婚し五人の子供をもうけたが、数えるのも面倒なほど昔に老いて死んでいった。愛しい者の死は何度乗り越えても悲しいもので、彼が孤独を望むのはそういった傷心を避けたいがためだった。

 鼓動しない胸、脈を打たない手、生物の匂いもしない。しかしなぜか今は、それに安らぎを感じている自分がいる。

「全て話せ」

すがるようにアンヴァルクに抱きついて、偉大な王メルヴィトゼンは静かに言った。

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