悪の終


「初めまして! ジヴェーダさん」

やってきたのは見覚えのない黒い髪の青年だった。初めまして、と言うからには相手もジヴェーダと初めて会うのだろう。妙に高い声をして、それも最上級の笑顔と共に入ってきたものだから拍子抜けを通り越して怒りを覚え、それすらもばかばかしくなって無に落ち着いた。

「まさか制服を着るだけで、こんなに簡単に宮廷に潜り込めるとは思いもしませんでしたよ!」

確かに細身で美しい顔の黒い髪だが、細い切れ長の瞳は利発そうというよりも軽薄そうに見える。肌の色や骨格を見る限りでは完全に黒い髪のエクアフであるのに、言葉の端々に微妙なシクアスのなまりがある。背は黒い髪にしては少し低く175センチもないくらいだ。腰まである長い髪を後ろで結わき、よく見るとエクアフの肌に合う淡い化粧をしていた。薄く色づく桃色の頬は少女のように可憐な印象さえ与え、青年から漂ってくる本質的な冷徹さを上手い具合に隠している。制服は青年の身体にあっておらず、かなりだぼついていたが見える首や手の細さから、いかに華奢であるかは見て取れる。

ともかく得体の知れない青年だが、本人の言う通り亡国の宮廷にしても不審者の対応にはもう少し気をつけてほしいものである。
青年はドアを勢いよく乱暴にしめるとかしこまった風に一礼した。


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