悪の終


1580年。クウェージアは滅んだ。

小国といえども、歴史ある一つの国の終焉を目の当たりにして、彼は改めて自分の無力さと小ささを思い知った。元から国のあり方を悲観し、いずれはそうなるであろうと人事のように観覧していたが、やはり仕える国がこうあっさり無くなると感慨深くもなるものである。なにより彼は宮廷拷問師という最も輝かしい職を失ったのだ。気落ちするのも無理はない、と力なく自分を励ましてもみた。

彼は目を閉じていたが、とうの昔に目が覚めていた。顔面に降り注ぐ太陽の光を鬱陶しく感じながらも、半分意地のようなもので目を開けたくなかった。特注の、一人で寝るには広すぎる――孤独すら感じるほどに巨大なベッドの上で、彼は朝からずっと目を閉じて起きている。
現実は常に安息を与えてくれないが、目を閉じて起きている時だけは現実が無力になることを彼は昔から知っていた。
しかし、ベッドすぐ左脇にある無駄にでかい窓からは、邪魔な光と共に騒がしい中年男の怒鳴り声が何度ともなく彼の意地のような夢を侵してくる。

クウェージアを滅ぼし彼の職を奪った張本人――今は新王国の英雄であるエメザレが白い髪の国外追放を決定したために、この宮廷のある首都を含めクウェージアに住んでいた全ての白い髪は期限内に自ら国外に出て、白い髪の隣国スミジリアンに赴かねばならなかった。


- 1 -


[*前] | [次#]
しおりを挟む


モドルTOP