悪の終


皇帝は殺すことを望んだ。それは皇帝の命令である。観客はそれに従えとジヴェーダを促し、ゆえに皇帝に忠実であると個々に主張している。

「最後に言い残すことはないか」

そんな観客をことごとく黙殺してジヴェーダは、少年に向かって囁いた。

「おか……あ、さん……家に…帰りたい…帰り……たい…よ」

少年はずっとそれを繰り返して呟いていた。ジヴェーダは少年のものを断ち切ったはさみできつく縛られていた縄を切り、台からも降ろして地面にうつ伏せにした。タイミングを合わせてフォスガンティは舞台裏から持ってきた斧をジヴェーダに手渡した。

「あい…してる」

と最後に言葉を放った少年の頭に斧を振り下ろした。
骨を砕く鈍い音が手に響いた。ジヴェーダは首を切り落とすのに慣れていない。途中で分厚い肉に喰い込み、少年の首は中途半端に千切れて自らの残骸にぶら下がった。絶命したはずの少年の身体は痙攣し、それに合わせて首から血を吹いた。ジヴェーダは返り血を拭いもせず、少年の背に足をかけ右手で男の宙を揺れる頭を捕まえて力任せに引き千切ると、衝撃で肉片が飛び散り顔に付いた。
肉片を舌で拭いつつその首をラルグイムの偉大な皇帝陛下に向けて掲げれば、皇帝はゆっくりと立ち上がり緩やかな速さで何度も手を叩いた。

つかの間の静寂はやがて無数の拍手と絶賛の叫びに変わり、ベイネ中に響きわたるような歓声が厚く彼を包み込んだ。まるで金の雨が降ってきたかのように大量の金貨が舞台に投げ込まれ舞台は金貨の海に変わった。


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