悪の終


確かに彼の髪は灰色というより白に近く、純潔の白い髪と並ばなければ灰色だとわからないほどだった。白い髪を見ることがほとんどないシクアスには、なおさらその違いはわかるまい。
しかしこのささやかな違いがなければ、残酷非道豪腕無敵の拷問師は生まれなかったのだ。そのことを、舞台の上で文句をたれているシクアスが知るはずもないのだとわかりつつも、やはり怒りはこみあげた。

「出番ですよ。緊張なさってます?」

後ろでフォスガンティが言った。しかし何も返さないままに舞台に出ようとジヴェーダは歩き出した。

「ぼくはあなたがどんなふうに生きてきたのかは知りません。なにがあって拷問師になったのか、どんな扱いを受けてきたのかもわかりません。でもあなたは素晴らしいひとです。だからこうして脚光を浴びているのです。あなたはなにも間違ってなかった。どうか自身を卑下しないでください」

応援の意味も込めてか静かな口調でフォスガンティは言ったが、それでもジヴェーダは振り返りもしなかった。
薄暗い舞台裏から見える舞台への入口は日の光で眩しく輝いて、まるで異次元へ続いているかのようだった。彼は歩きながら全てを見下すように笑っていた。そしてその笑みを浮かべながら光の門をくぐり抜けた。


- 42 -


[*前] | [次#]
しおりを挟む


モドルTOP