悪の終


恐ろしく大きな、もはや城という表現が正確なラルダ・シジの豪邸はラルグイムに三十あるらしい。ラルダ・シジはいつもラルグイムにいるわけではなく、各地を気まぐれに転々としている。ラルダ・シジが歩けば金が動くので、こっそり後ろをつけて回る商人も少なくないと聞いた。

ラルグイムはクウェージアの国土の、約三倍の大きさを持つが軍事力と経済力の差は計り知れないことがベイネを見てよくわかった。ラルダ・シジの豪邸はクウェージアの宮廷より大きく太陽のごとき絢爛の輝きを放ちながら、ベイネのど真ん中に君臨していた。


「やぁやぁ、よく遠路遥々来てくれたね。ジヴェーダ君!」

どんなに無知でも一目で価値がわかるくらい、あからさまに高級な置物が所狭しときっちり並べられている広い部屋でラルダ・シジは立っていた。
悪趣味ほど豪華な装飾を着たラルダ・シジという人物は見たところ愛想がよく謙虚さがにじみ出た風貌で、およそ大富豪らしくなかった。歳は五十半ばくらい。シクアスらしい小太りな体格で、背はこれで普通なのかもしれないがジヴェーダと比べればかなり小さく、流暢とはいかないまでもエクアフ語を操ってにこやかな様子である。
その裏で物騒なショーを生業にしているとはあまり想像ができない。

しかしシクアスの考えにそえば、罪人解体ショーも奴隷拷問ショーも演劇と同じ「見世物」なのだ。よってその劇場の支配人と物騒なワードからなんとなく連想される暗黒街のボスとが全くかけ離れているのは当然なのだが、邪悪な拷問師の引き取り手がこうも真っ当な商人であると、恐れ多くもジヴェーダとしては歪んだ誇りに少々傷がつくものだ。
もっともここまできて引くわけに行かないので、愛想良く二つ返事をするのだろうが。


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