悪の終


「ああ、大名艶は男娼や娼婦の最上級の位ですよ。ベイネの都市は花街が多く競争が激しいので、こうして宣伝のために店一番の売れっ子を練り歩かせるんです! ですが、ああして騒いでいるのはもっぱら観光客なので、店の収益にはあまり関係なかったりするのですがね」
「それはご苦労なことだな」

彼はまた鼻で笑った。
クウェージアの娼婦たちがどれほどひどい扱いを受けているか彼は嫌なほどに知っている。クウェージアの娼婦たちは灰色の髪が多かった。働き口がなく食べるものにも困ればそれは仕方のないことだ。
それでも彼女たちの存在は国をあげて徹底的に無視されてきた。娼館の外に一歩でも出れば人の扱いなどされず、例えなにかの拍子に死んだとしても雑草ほども気にされない。
それは拷問師と同じ灰色髪の呪われた職業の一つであった。

しかしジヴェーダはそんな娼婦たちが好きだった。強く邪悪で、そして同情し合うわけでも励まし合うわけでもなく、ただ身体を重ねるだけでなにも言わずとも辛さを分かち合える唯一の存在だったから。

その一方で世界には娼婦を偶像のようにしてもてはやす国がある。
約三十年もの時間をかけて構築してきた価値観がこんなにあっけなく意味のないものになるとは。シクアス的思想の破壊力は甚大といえた。

「ちなみにですが、ぼくも大名艶です。ただ無数にひしめき合う小さな花街の大名艶ではなくラルグイムという国の大名艶です。ぼくは正式には大名艶・ラルグイム・フォスガンティなんですよ! いうなれば国家資格というか称号みたいなものです」

フォスガンティは胸を張り自慢げに言ったが、ジヴェーダには残念ながらもう返す言葉が見つからなかった。


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