悪の終


母はどうしているだろうか。

死んだはずの少年がまだ息でもしているのか、彼は十数年ぶりにそんなことを思った。
ログのもとで働き出した時からクウェージアが滅んだその日まで、彼は給料の三分の一を家に送り続けていた。配達を頼んでいる運送会社には、もし受け取りが拒否されたり受け取る家族がなくなった場合、自分には知らせず会社の運営資金にでも充ててくれと頼んである。

「何を考えておられるのですか?」

夢すらも害さないような静かな声でフォスガンティが聞いてきた。

「海のことを考えていた。広い平静の海を」

ジヴェーダは腕中のフォスガンティの顔は見ず、まるで自分に答えるように冗談めかしてそう言った。
ふいに冗談を吐いた唇に指が当てられ、まるでエルドのように安らぎを湛えた綺麗な顔の男娼が腕中から這い上がってきた。ごく自然のことのように口づけて、押し付けられた細い腰を抱き、誘われるままに服を脱がせるとフォスガンティのそこには男性器を切除した時にできたと思われる傷を隠すように太陽モチーフの刺青が入れられており、その下には女のものより多少歪な、それでもそれ似た得体の知れない穴が付いていた。
まるで迷宮に挑む冒険者のように妙な高揚感を感じつつも、彼は勇ましく自らを迷宮の穴に入れた。


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