悪の終


その時、彼が感じたのは悲劇にも罪悪感ではなく、人生で始めての優越感だった。味わったことのない至福と爽快感。
自分を罵倒し軽蔑し救いもせず責苦を与え続けた「奴ら」は、その時縮こまり震え泣き叫び許しを請い床に頭をすりつけ崇拝するかのように彼に恐怖して無様に這いずり回る。
彼はかつて「奴ら」が母の植えた花を踏みにじったように「奴ら」を無下に踏みにじって正義すら感じた。

そしてひどい憎悪の猛爆の末に、冷静を取り戻した時の無限のような嫌悪感、後悔、虚無感、煩悶。段々と邪悪と化していく自分を肌で感じて泣いた。指先から冷たくなり感情を失くしていく皮膚が全身を包み込んでいく感覚が恐かった。
何度彼はそれを繰り返し繰り返し、愚かに繰り返し、哀れにも何度も何度も何度も何度も。

そしてやがてたどり着いたのは心の平静の海。静かで冷たくなにも響かず広がるただの面。誰かを支配するときだけやってくる、海を焦がす憎しみの爆炎と太陽のごとき蹂躙欲。
まるで使命のように怒り狂い世界を憎んで「奴ら」を破壊しようとも、歪んだ誇りが無敵のように彼を庇って痛さもなく直進し続ければ、気付いた時には既にクウェージアで誰もが恐れる邪悪な拷問師と成り果てていた。


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