悪の終


しかし十四歳の時、彼の人生は一転した。バルダミアスが死んだのである。殺されたのだ。
バルダミアスはその日、地主の家からエルドの像を盗んだとして捕らえられた使用人を拷問し、像のありかを吐かせようとしていた。しかし三日三晩の責苦でついに気を違えた使用人が狂気の底力で縄を引きちぎりバルダミアスのナイフを奪って刺し殺した。

稼ぎ頭を失った家はあっという間に窮乏した。あと一年神学校に通えば彼は神官になれた。
そしてその金がなくはなかった。というのも母が、彼があと一年学校に通えるだけの金を使わずに取っておいたのだ。弟と妹も彼が神学校に通うことに賛成した。二つ下の弟は「自分が父の跡を継いで拷問師になるから心配するな」と言って、通っていた学校を辞めた。

そんな家族に涙しつつも、神に祈り平安を願い人のために働きたいと思う心優しきかつての彼が、それを素直に受け入れるはずがなかった。あと一年学校に通い、神官になったとしても待っているのは無償に近い給料だけである。
何日かの葛藤の末に彼は神官になるのを諦め、神学校を辞めて拷問師になると勝手に決めた。拷問師になれば裕福とまではいかなくとも、食べ物に困ることはまずない。

「良い拷問師にはどうしたらなれるのか」と最後の日の学校で聞いた。年老いた神官は「拷問師は良くなどなれない。邪悪を極めた者なのだから」と言った。

家族のために悪に染まろうとする少年の心は果たして邪悪だろうか。神は哀れな少年の心を踏みにじって気休めを与え最終的な救済をしなかった。彼はその言葉に心底絶望して二度と祈らないと誓った。


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