悪の終


「しかしなぜ『空間移動』なんです? こっそり窓から侵入したのかもしれないし、どこかに隠し通路があったのかもしれませんよ。なぜよりにもよって『空間移動』と噂に?」

フォスガンティは木箱から違う酒を出してよこした。
いつもは軽薄そうな瞳が今は純粋な少年のようだった。

「見たのさ」

それを受け取りジヴェーダは言った。

「見た?」
「そう、王子の悲鳴を聞いた側近が慌てて玉座の間に飛び込んだ。しかも七人。すでに王の首は床に、王子も息絶えていた。そこにエメザレが立っていたわけだ。奴は驚く側近を尻目に王の首を拾うと幻のように消えていなくなったんだそうだ。七人が見ている」

ジヴェーダは次の酒に口をつけた。今度は辛い。彼の好みだ。

「その七人がエメザレと共犯で王と王子を殺し、隙を見てエメザレを城から逃がしたという可能性はないのですか?」
「ある。が七人は否定している。取り調べる暇もないまま白い髪は国外退去になった。この謎が解けることはもうないだろう」

グラスの中のゆらめく酒を見ながら呟いた。彼とて真実を少なからず知りたかった。心の底で彼はエメザレが現れるのを待っていたのかもしれない。
ばからしいことだ。
彼はグラスの酒を一気に飲んだ。


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