悪の終


広いとはいえ、商用馬車に偽装するための木箱が所狭と並べられているために、二人が横になれば多少密着しなければならなかった。シクアス式の馬車は座るのではなく寝るように作られている。
ジヴェーダが何枚にも重ねられた上等な羊毛の毛布に横たわると、かすかな動物の臭いとそれを隠すひどい香料の香りがした。
そのすぐ脇でフォスガンティが羽織っていた制服を脱ぎ捨て窓から放り投げた。そしてフォスガンティは後ろの木箱から酒らしきものを取り出し、同じく木箱から取り出したグラスに注いで差出してきた。

「ひとつ聞いても構いませんか? ぼくの個人的な興味なんですが……」
「言ってみろ」

ジヴェーダはその酒を受け取り流すように言った。

「噂に、エメザレという人物は死んで蘇り空間移動をして王を暗殺したと聞いたんですが、実際のところはどうなんです? まさか鵜呑みに信じているわけではありませんが、そんな噂が流れるのはなぜなのか気になったのもので」

もうその話が国外に洩れているのか。
彼は驚いたが、ただ二人の犠牲で一国の歴史を変え、しかも多くの謎に包まれたその革命が、多くの尾びれを付け足されながらも永く伝説のようにして語り継がれるのを想像するのはあまりに簡単である。小国の大事件が世界を賑わすのも時間の問題だろう。


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