悪の終


「ではすぐにでも発ちましょう! ……この部屋の他の物は置いていかれるのですか?」

フォスガンティは驚いた顔でぐるりと部屋を見渡した。この部屋に置かれている物の価値に気付いてはいるようだったが、さすがに豊かな暮らしぶりをしているらしく、もの欲しそうな顔はしなかった。

「お前、好きなものがあったら勝手に持っていけ。どうせ置いていくんだ」
「ならジヴェーダ様、ぼくに似合うものをこの部屋の中から贈ってください」

いかにも男娼らしい媚びた発想だ。
フォスガンティはその美しい軽薄そうな目を細めて艶やかに微笑んだ。

「そうだな」ジヴェーダは部屋を見渡し「これをやろう」と偶然目に留まった、なんとも罰当たりなエルドの張り型を投げて渡した。
それとてどこだかの職人が丹精込めて作ったものだ。張り型と言わずに飾っておけば、ただのエルド像であると勘違いして熱心な教徒がひざまずきそうなくらいに素晴らしい完成度の一品だった。

「ははははは! 素晴らしいユーモアのセンスをお持ちですね! エクアフには珍しい。これは傑作だ!」

基本的に無神教であるシクアス種族には、異教の神が誰かのケツに突き刺さるのが楽しくて仕方ないに違いない。
彼とてその様に期待して買ったわけだが、なんと不謹慎な! と叫び吐いて目を白黒させつつもなす術なく、自身の崇める神が自身を犯かしていく絶望を哀れなエルド教徒に与えるためのものであり、けしてどこぞの淫蕩者を喜ばせるためのものではない。

ジヴェーダはいやらしい手つきでエルドの張り型を撫で回しているフォスガンティを適当に押しのけ、なんの未練もなしにもう二度と戻ることはないであろう自分の部屋を後にした。


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