悪の終


「ラルダ・シジのお気遣いはわかったから服を着ろ」

彼が命じるとフォスガンティは少々不服そうに――少々無様に床に落ちた制服を拾い上げ何度か叩いてから羽織った。ボタンを閉める気はないらしい。開けっ放しの上着の間からは白い豊かな胸の谷間が見えた。

「それでこれから俺にどうしろと」

彼はラルグイムを地図の上でしか知らない。嫌でもこの男娼に頼らなければならないことが、なんとなくしゃくに障る。

「この都市の外に大型の馬車を用意してあります。それに乗っていただいて、まずラルダ・シジのもとへ参ります。そこで契約を交わしてください。あ、旅の支度は慌てなくて結構です。見たところ引越しの準備はまだ終わっていないようですし。とはいえ早く発つに越したことはございませんが」
「支度ならもうできてる」

と彼は一つの鞄を指差した。
結局、これだけの物を買い優越に浸ったところで心を慰めてくれるものにはついぞ出会えなかった。彼にとって本当に必要なものはこの小さな鞄に全て入ってしまうほどにわずかな拷問用具だけで、それ以外の物はどれも愛しくも大切でもなく、見栄か気晴らしに買っただけの高級なゴミでしかない。
ただ、誰かがそれを羨ましく思って彼を妬む時だけそれは高級品へと価値を戻すのだ。


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