悪の終


「女だったのか」

侮蔑は含まない純粋な驚きで呟いた。

「いえいえ、ぼくは男ですよ。モート種族の高度な手術を何度か受けているのです。とても高い手術で選ばれた男娼しか受けることができないんですよ! あのラルダ・シジに気に入られて、しかも贈り物にされるくらいですから、ぼくがいかに秀でた技を持っているか想像に容易いでしょう?」

フォスガンティは自らの胸を大切そうに撫で回しながら言った。その口ぶりからして自信は相当のものらしく、そこにはジヴェーダのようなある種の歪んだ「卑しさ」への誇りではなく、ただ単に美しい自分への誇りだけを感じて取れた。

シクアスには拷問師だから、男娼だから「卑しい」という概念がないと聞いた事がある。それはただの職業で人柄が良い悪いとは全く別の話なのだと。そう聞けば穏やかな種族であるように思えるが、要は人を傷つけあるいは身体を売ることを卑しいとも感じない愚かな種族なのだ。
彼はエクアフらしく他種族を見下して小ばかにしたように、「ふん」と言った。

「それに、長距離を移動するには女は足手まといになります。いざというとき主人を守れませんしね。夜しか役に立ちません。その点ぼくは、昼は男として夜は女として使えます! どう考えてもぼくの方が便利です。ぼくはこう見えて剣の腕が立つんですよ! この制服だってこの剣で奪い取ったのですから!」

フォスガンティは腰に差していた剣を引き抜き振り回してから、上半身裸のままで高々と掲げた。そのエクアフ式とは反対に反り返ったシクアスの剣には、突然に斬り付けられたのであろう哀れなエクアフのものと思われる血がべったりと付いていた。なんの後悔も罪悪感もなしにそれを自慢のように語るシクアスを理解し難いと思ったが、考えてもみれば自分も人を支配して悦に浸るのだから文句を言えたことではない。


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