悪の終


「スカウトだと?」

二人は立ったままに話を続けた。もっともジヴェーダはフォスガンティに椅子を引き茶を勧める気はなかったが。

「そうです! ぼくの主人はラルダ・シジと申しまして、東南の国ラルグイムで三大闘技場の一つであるノムン闘技場と、いくつもの劇場の支配人をしております。闘技場では奴隷拷問ショーや罪人解体ショーなどを毎日開催しているのですが、是非あなたにノムン闘技場の専属の拷問師になって頂きたくお願いに参った次第でございます。
ラルダ・シジはラルグイムで五本の指に入る大富豪ですので、言っては申し訳ないですが小国の宮廷なんかより余程給料は良いですよ。それに――いや、あなたがどんな扱いを受けているのかぼくは知りかねますが、ノムンの拷問師になればヒーローに!ラルグイムで人気者の有名人になれます! どうでしょう? 悪い話ではないと思うのですが」

フォスガンティの口からはまるで黙ることを知らないかのように、次から次へと止め処なく言葉が噴出してくる。
うんざりしながらも聞き続ければ確かに悪い話でないことだけは確かだ。
彼はまだシクアスの国に行ったことはないが、噂に物騒な催し物が日夜執り行われ乱痴気騒ぎに明け暮れていると聞いていた。それは今まで、白い髪が――例えば黒い髪が劣っていて自分たちが最も崇高だと言うような、他種族を見下すが故の誇張して表現したシクアスの悪習だと思っていた。
少なくともこのクウェージアでは拷問を公開して民衆に楽しんで頂こうなどという発想は誰の頭からも飛び出てはこないだろう。

大きな文化の隔たりに内心たじろぎはしたが、彼の努力して手に入れた力を行使して何かを破壊し君臨する誇りと喜びに、その隔たりは関係のないことのように思えた。

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