悪の終


「お前、誰だ」

ジヴェーダがいかにも機嫌が悪そうな声で聞くと青年は元気よく顔を上げた。

「失礼しました。ぼくはカウチ・ハウバーです。もっともそれは偽名で本名をフォスガンティと言います。いや、間違いました。それは源氏名でした。本名は……役所に行けばわかるのですが忘れてしまいました。ですがぼくはフォスガンティとしか呼ばれませんので、どうぞフォスガンティとお呼びください」

フォスガンティは散らかった部屋の有様には目もくれず、ただ面倒なほどに強い眼力でジヴェーダの目を直視しつつ最上級の――むしろ引きつらせたような笑顔を有したまま怒涛の勢いで話した。
この独特の自己主張の強さと相手の目をひどい眼力で直視する癖は、シクアス種族のエクアフには理解しがたい文化であり、フォスガンティがシクアス語圏で生まれ育ったエクアフ種族であることを彼は確信した。

それにしてもフォスガンティ(艶華)は女の名前である。シクアス語の拷問指南書を辞書なしで翻訳できるくらいにシクアス語を解する彼にはそれがすぐわかった。フォスガンティが源氏名であるならば、おそらく出は男娼だろう。

「実はあなたをスカウトに来たのです」

間髪いれずにフォスガンティは言った。


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