悪の終 なにを恐れて死ぬ支度などしているのか。おめおめと死ぬこともないだろうに。俺はどうかしているに違いない。 彼は床に投げ出された白い服の上を土足で通り過ぎ、机の引き出しの中から金のナイフを取り出した。 これで奴を殺せるだろうか。 金の――これまたたくさんの宝石が散りばめられた美しい鋭利なナイフをまじまじと眺めながら彼は考えた。 いや、殺せないだろう。 宮廷に来たエメザレを初めて犯すとき、現れた裸体はとても綺麗であり戦場で受けた傷の跡は一つもなくただ白かった。それはエメザレがいかに強いかを表し、そしてそんな強敵をこうして簡単に支配して自分の好きにできることに限りない幸福を感じたのだから。 ないよりはマシか。 彼はそのナイフを袖に忍ばせ、なぜ会うことを承諾してしまったのかと今更に後悔した。 その時、ドアが四度ノックされ彼に重い緊張が走った。 逃げてしまおうか。 今、窓から飛び降りれば丁度良くも引越し準備で家具がひしめき合う路上に出られる。運良くソファーかベッドの上に着地できれば死なずに済むかもしれない。だが、もし下にベッドもソファーもなかったら? 地面に叩きつけられて死ぬだろう。殺されるのを恐れ切羽詰って窓から逃げ出し落ちて死ぬ? あり得ないな。 ジヴェーダは不気味な薄笑いを浮かべて諦めた。 「入れ」 震えるのを押し殺し彼は低く言った。 [*前] | [次#] しおりを挟む モドルTOP |