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◆7

夕日だ。綺麗な夕日。空が燃えるように赤いんだ。太陽が爆破されたみたいに、世界が終わる、灼熱のあの最期の日のように空が赤いんだ。でも体温のような暖かさ。
耳の中で水の音がする。そして太陽のような匂いがする。

けれども空に浮かんでいたのは太陽ではなかった。巨大な真っ白な月だった。雲は一つもない。赤い空に大きな月が浮かんでいるだけだった。
なんて懐かしい匂いだろう。どうしてこの灼熱のような燃え盛る空の下で、こんなにも絶対的な安寧を感じるのだろう。

偉大なる美しい月の下には、地平線まで続く広大な金の草原が広がって、その中心のようなところに大きな大きな木があった。そこはずっと帰りたいと思っていた場所だった。
ひとは誰しも大きな木の下に還りたいのだと思っていた。

それは木なのではなくて、全てを見守り受け入れ、時には外敵の厄災から守ってくれる大きくて優しい存在という意味で、そういう意味で木の下に還りたいと、ふとした瞬間に思い出すことがあるのだとしたら、それは間違いなくこの大きな木のことだと思った。

そんな木があったっていいじゃないかと思った。守ってくれる救いの木が世界のどこかにあってもいいじゃないか。

あれは夕日じゃなかったんだ。
あの時の、捨てられた日のものすごく綺麗な夕日は、燃える空に輝く月だったのだ。

「母さん、どこにいるの」

エメザレは泣いていた。
一体自分は今どのように表示されているのだろう。きっとそのまま、あの時、死んだまま二十七歳なのだろうか。

手が動き、足があるけれど、どのようにこの世界で表示されているのか自分ではわからない。でも子供みたいな気持ちだった。

「お帰りなさい」

唐突に、背後で尊大な塊が騒めいた。高揚のない、平らでとても静かな声だった。
糸が、黒いたくさんの細い糸が、後ろからエメザレに絡みついてきて、細すぎる指先と腕が、まるで殺す時のように、もしくは産み落とす時のように強く抱きしめた。

「母さんなの」

エメザレは振り向いた。初めて見たのだ。母親というものを。


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