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懐かしい味がした。

香辛料の強い、南の隣国ラルグイムのラム酒と同じ味だった。

愛国の息子達は十六歳になると、ラルグイムに遠征に行くことになる。それまでは軍事施設に閉じ込められて訓練漬けの日々を送るが、遠征で初めて外の世界に解き放たれる。

自由の国ラルグイムでは、みんな昼から酒を飲んでいた。

浅黒い肌色で、性差の少ない小柄なシクアス種族は、男も女も念入りに化粧をしていて、きつい香水の匂いを振り撒きながら、男同士だろうが女同士だろうが、公共の面前で堂々と愛を語り合っていた。

それでも、エクアフ種族である愛国の息子達に、彼らなりに気を使い、遠征場所にたくさんの光輝く娼婦を招いて、褒美として充てがった。

十七歳の時、エメザレに初めて充てがわれたのは、エメザレと同じくクウェージアの孤児で、ラルグイムに売られたエクアフ種族の女性だった。

むせ返るような香水の香りと、その時ついでくれたラム酒のことを思い出した。

「イウ王子は大丈夫でしたか?」

特に語り合う話題もないもない二人は黙って酒を飲んでいたが、エメザレが口を開いた。

ジヴェーダは来客用のソファに寝転がり、自室で寛いでいるような姿勢で行儀悪く飲んでいる。クッションを枕代わりにし、背が高いのでソファに対し半分足が飛び出ている格好だ。

庭では先ほどからボッティシーの旋律が流れている。

「大丈夫ではないな。お前は本当にえらいことをしてくれた。今でもお前を英雄だって喚き散らしてるよ。誰の言うことも聞かない。

だから今はお仕置き部屋に閉じ込められている。親子関係は史上最悪。全部お前のせい。

ちなみに俺は王子の前に姿を現してはいけない邪悪なる存在だから、俺にどうにかしろとか言われても無理だな。以上」

エメザレは自分をかばったばかりにひどい目に合っている不憫な白い王子のことを想った。

どうして自分なんかをかばってくれたのだろう。一体どんな部分が彼の気持ちを動かしたのか。王子とはほとんど話していない。というより一度きりしかない。それもたった少しの時間だ。

エメザレは宮廷でジヴェーダと同じく悪しきものとして扱われただけだったのだ。

何をしていたのかと言えば、片付けと掃除をしながらジヴェーダに殴られ鞭で打たれていただけだ。反論するわけでも反撃するわけでもなく、言われるがまま、されるがまま、命令に従い黙って耐え忍んでいただけだ。

憧れる要素があるとすれば屈しない姿勢だろうか。弱い理由だが、それ以外には思い当たらなかった。

「王子はあなたが私にしたことを、どこまで把握しているのですか」

「俺がお前を犯していたことは知らない。まだ十歳だから勘付いてもいない。だが、このままの状態が続けば、いずれ言うことにはなるだろうな。陛下の命が下れば、俺が言うことになるだろう」

自分のことをもっと王子が知ったら彼は一体どう思うのだろう。きっと綺麗な部分しか彼には見えていない。隠された部分を知ったら、英雄なんてもう言わないだろう。

エメザレはそんなことを思いながら、ジヴェーダと酒を飲んでいた。

ボッティシーの旋律は切なかった。

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