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「いいや」

ジヴェーダはほくそ笑んだ。

「お前が俺にお礼を申し上げたいっていうから来たんだがね」

エメザレは驚きで目を瞬いた。言葉が思いつかずにジヴェーダの次の言葉を待った。

「ここは俺が建てた俺の施設。言っておくが慈善事業じゃないからな」

「なら、なんのための」

「趣味の悪い言い回しをすれば、作品の保管だな」

「作品?」

「そう。お前もその一つ。俺が拷問して作り上げた異形の作品。その異形である部分に、そうだな……時には愛おしいという言葉すら間違いでないものを感じる」

ジヴェーダは背を向け窓のほうを見た。窓からは森が見える。深く生い茂る木々。憩いというより不気味な森。仄暗くていつも霧がかっている。

「ここは言うなれば美術館さ。俺が鑑賞して楽しむための」

そういう趣味嗜好はよくわからない。だが、自分のように助かる者もいるだろうから、いくら理由が悪趣味であっても悪いことではないと思った。

事実、エメザレは教会病院の待遇を考えれば、ここではまるで夢のように丁寧な扱いを受けていた。

「失礼致します」

ノックとともに看護婦が入ってきた。看護婦はカートを引いている。しかも貴族が使うような綺麗なカート。乗っていたものは果物を盛った皿と、グラスがいくつかと水と酒だった。

 それだけ置くと看護婦は一礼して去っていった。

「お前も飲むか」

ジヴェーダはさっそくグラスに並々酒を注いだ。水では割らないらしい。さらにもう一つのグラスにも酒を注いだ。おそらく強い酒だろう。軍事病院では、というか普通、病院では酒は出ないので酒を見るのもかなり久しぶりだった。

「飲めよ。内臓は問題ないんだろ」

ジヴェーダはグラスを半ば強引に手渡した。外はまだ少し明るい。一瞬どうしようかと迷いはしたが、まぁ確かに内蔵は元気なのでせっかくの機会に頂くのも悪くないと思った。

この奇妙な再会を祝して、二人は静かな乾杯をしたのだった。



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