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生まれた町の名も、子供が二人いて母親と夫と住んでいることも、好きな食べ物さえ同じであり、全員三十歳だった。

中にはどう見ても十代と思しきレイテもいる。最年長のレイテはおそらく五十代だろう。

そして彼女たちはこちらから話しかけない限り、事務的な会話以外はけして話をしないのだ。プライベートにお互い介入することを避けているような気がした。

看護婦レイテの設定があり、なぜか全員でレイテを演じている。患者たちは散歩ですれ違う程度で、顔を合わせるということは滅多にない。合わせないように管理しているようだった。

だからと言って何か実害があるわけでもなく、少し不気味なだけで、有難い場所であるのは確かだった。




三週間ほどが過ぎた。エメザレは病室のベッドで身体を起こし日課の読書をしていたが、ドアが開く音がしたので顔を上げた。人物はかなり大柄のようだが外からの光で顔がよく見えない。

そもそも視力がだいぶ落ちている。エスラールや愛国の息子達ではないだろう。卒隊までまだあと約半年はある。

その人物は遠慮することなく、ずかずかと入ってくると、見下すようにしてエメザレの前に立った。近くまで来て、やっと顔がわかった。そして沈黙した。

なんだか不思議だと思った。何も思わないのだ。二人は見つめあったまましばらく沈黙していた。

「意外だな。もっと怖がるかと思ったのに」

拷問師ジヴェーダが先に口を開いた。

エメザレを拷問した張本人。クウェージアで最も有名な拷問師であり、黒い髪と白い髪の混血児でありながらその邪悪すぎる性質ゆえに唯一宮廷で働くことが許された悪の象徴。

軍人だった、かつてのエメザレより遥かに立派な体躯している。いつも何かを否定しているような顔で、世の中の不条理を笑っている。

混血児は灰色の髪と呼ばれていたが、ジヴェーダの髪の色は純潔な白い髪と並ばなければ気が付かれないほど白かった。髪の潤いは相変わらずなく、ぱさぱさで、世の中のすべてを破滅させたいような、退廃的な雰囲気は沁みついて離れないようだった。

灰色の瞳は常に人を見下して、冷徹な光を放っている。

ほんの三カ月前、エメザレの身体をこんな風になるまで破壊した。

残りの人生の全てを奪ったと言っても過言ではない。もう二度と歩くことはできないし、顔ももとに戻ることはない。

あの時の痛み、毎日毎日鞭で打たれ殴られて屈辱された。痛みで眠ることもできず、寒さで凍えそうだった。

もっと恨みや怒り、もしくはジヴェーダの言う通り恐怖が湧き出してもいいはずだった。

「だってもう逃げられませんから」

と言ったがジヴェーダが聞き取れたかはわかない。

拷問で声がかすれて、耳をそばだててくれないと聞き取れないほど、小さな声しか出せなくなった。ついでに言うなら耳も聞こえづらくなった。耳の中に水が入った時のように、薄い膜に音が遮られているようだった。

声があまり出せないことに気付いたのか、ジヴェーダはエメザレのそばに来ると耳を傾けた。

ジヴェーダは宮廷にいる時、常に白い宮廷着を着ていたが、今はかなりラフな格好をしている。上はゆったりとした白いシャツだが、ズボンは黒だった。黒い色の服を着ていることは、少し意外だった。

「なんの御用ですか。私を殺しに来ましたか」

エメザレは聞いた。例えそうだったとしてもむしろそれでいいような気さえした。だから怒りも恐怖もわかなかったのかもしれない。

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