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思わず両手で顔を撫でてみたが、残念ながらエメザレの視点からでは確認できなかった。

「私はここに来たことがある。ここはあの時の空白なの?」
「そうだ。君はここに到達したことがある。」
「世界機構とは何。あなたは何」

「世界機構は基本世界を支配している存在だ。基本世界とは君たちが存在している世界。支配といっても滅多なことでは世界機構は基本世界に干渉しないので、管理している、という言葉のほうが近いかもしれない。私は機構側の存在ではない。私の名はスギスタ。元々は君たちと同じくヴェーネン(人類)だった。

私は昔、世界機構の管理システムを書き換えようとして、削除されかけたが一部を保存することに成功し、思念体としてのみ存在している。要は魂だけが残っている状態と解釈してもらえばおおむね正しい。私が基本世界に干渉しようとすると、機構は感知して私を削除しようと動き出す。だから君が瀕死になった時、つまり重大な場面以外は物体として出現できなかったのだ」

「あなたは私が小さい頃からずっと、ずっと死にそうな私を見ていた」
「ずっと君を見ていた。それが我々の役目だったから」
「あなたの目的とは」

「我々の目的は現ヴェーネンを新たなるヴェーネンに置き換えることだ。世界に進化を与え、あの不老不死だった偉大なる旧ヴェーネンを最終的には可能な領域の範囲内で復元したいのだ。世界女王と戦うために最強の兵隊が必要だ。君のデザインはそのプロセスの途中にある」

「私はヴェーネンではなかったの。だからいつも死ななかったの」

「そうだ。君は正確には現ヴェーネンではない。限りなく酷似しているが違う生命体だった。君は死ににくい。死ににくい遺伝子で設計したからだ。
いつも君は死ななかった。子供の時、疫病にかかったはずだ。疫病の子供は一つの部屋に押し込められ、部屋の子供は、君以外は死んだだろう。骨まで到達しない限りは、どんなに傷ついても傷は治る。

覚えているか? 十七の時、君はある美しい男に剣山のようなもので顔を傷付けられただろう。そしてその男も同じく剣山で顔を傷付けられた。だが君の傷だけが治り、あの男の顔は傷付いたままだった。不思議に思っていただろう。

致死量以上の毒を飲まされた時もあった。宮廷での拷問にしてもそうだ。君は通常のヴェーネンより格段に美しく賢く強く、長く生きながらえるよう設計されたのだ。

そして我々はその強度を観察していた。あらゆる不幸、あらゆる厄災、あらゆる試練、君の肉体と精神がどれほどの負荷に耐えられるのか我々は測らねばならなかった。

君が生理的に女体と交われない事象も設計の事情によるものだ。プロトタイプである君が子孫を残すことを我々は阻止せねばならなかった。君の子孫たちが誕生すれば、あっという間に彼らが世界を支配するだろう。そして現ヴェーネンの遺伝子は君たちに淘汰される。最終的にそれらのプロセスは実行されるが、それは我々が理想とする個体が完成された時の話だ。

だが君は我々が求めている強度に達していなかった。君は骨まで傷が及ぶと完全には皮膚を修復できない。また、自らの性癖に冷静に対処できず、幼少期より精神的な苦痛を常に抱えていた。君の精神は我々が望んだものよりはるかに脆かった。

君は繊細で優しすぎたんだ。そしてなにより、君はこの空白スペースにアクセスすることができた。それは想定外の重大な瑕疵(バグ)なのだ。それが君のデザインが破棄される最大の理由だ」

「私は削除されるの」

「いいや、君への救済処置は初期より完備されている。それについて心配する必要はない。君はリニューアルされるのだ。我々は君の健闘を讃えよう。通常のヴェーネンでは乗り越えられない、苦痛と待遇に、よく耐え抜いてくれた。君は美しくて強かった。君に恩恵を与えよう。完全なる母たるゴルトバが、君に恩恵をもたらすのだ。初期から完備された待遇だった。ゴルトバが君を設計した。君はゴルトバへ返還されるのだ」

「あまり理解できていない」

「理解などする必要はない。君は新しく生きればいいだけだ。全く違う君として。いつかまた会おう。我々はまた君に会える気がする」

「そうだね」
「では君を転送する。新たなる君に祝福を」



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